台湾の長期ケア制度の発展
台湾は急速な高齢化に直面している。2025年には高齢化率が20%を超え、「超高齢社会」の入口に立つ。誰が、どのように、どんな費用で高齢者のケアを担うのか——この問いに台湾は独自の答えを模索してきた。
長期ケア2.0(2017年〜):在宅ケアの拡充
台湾政府は2017年、長期ケア(長照)政策を「1.0」から「長期ケア2.0」へと刷新した。最大の転換は、施設中心から在宅・コミュニティ中心への移行だ。
「ABC拠点」と呼ばれる3層ネットワークが整備された。
- A:地域統合サポートセンター(旗艦センター)——ケアマネジメントと資源調整の拠点
- B:複合型サービスセンター——デイサービス、居宅リハビリ、短期入所
- C:巷弄(路地)長照站——高齢者が徒歩圏内で利用できる身近なサポート拠点
数字で見る成果
- サービス対象者:36万人以上(満足度85%以上)
- 年間予算:650億台湾元(たばこ税を財源として充当)
- ABC拠点数:全国5,000カ所以上
長照2.0は「家で暮らし続けたい」という高齢者の希望に応える制度として、国際的にも注目されている。
外国人介護労働者:もう一つの柱
長照2.0の陰に隠れがちだが、台湾の介護を実質的に支えているのが外国人介護労働者だ。
2024年時点の在籍者数:21万4,514人
出身国別の内訳:
- インドネシア:約80%
- フィリピン:約10.8%
- ベトナム:約8.9%
その多くが「住み込み」で高齢者や障がい者のケアを担う。台湾の多くの家庭にとって、外国人介護労働者の雇用は「必要不可欠」な選択肢となっている。
二重構造の問題
ここに台湾の長期ケア制度の核心的な矛盾がある。
長照2.0と外国人介護労働者は、別々の制度として並走している。
現行法では、外国人介護労働者を雇用している家庭は長照2.0のサービスを併用できない。つまり21万人以上の外国人介護労働者が支える家庭が、国の公的ケアサービスから切り離されているのだ。
この分断が生む問題:
- 外国人介護労働者への過度な依存:家族が「丸投げ」になりやすく、ケアの質の監視が難しい
- 外国人労働者の権利問題:長時間労働、休日の不確保、雇用主との力関係の不均衡
- 制度の非効率:36万人が長照2.0を利用し、21万人が外国人介護労働者に依存しているが、二つの世界は交わらない
国際比較:台湾の立ち位置
| 国 | 制度の特徴 |
|---|---|
| ドイツ | 介護保険(1995年)が基本。家族介護にも現金給付 |
| 日本 | 介護保険(2000年)で在宅・施設の選択制 |
| オランダ | 地域密着ケアを重視、「バータレンド(近所ケア)」モデル |
| シンガポール | 家族扶養義務法が存在、外国人ヘルパーも広く活用 |
| 台湾 | 公的長照2.0 + 外国人介護労働者の二重構造 |
台湾の外国人介護労働者への依存度は、先進国の中でも際立って高い。
長期ケア3.0へ:2026年の統合
台湾政府は長期ケア3.0を2026年に向けて準備している。最大の変化は二重構造の解消だ。
外国人介護労働者を雇用している家庭も長照の公的サービスを利用できるよう、制度を統合する方針だ。
3つの政策の矢:
- ボランティアケアのパイロット事業:地域住民が互いにケアし合う仕組みの試行
- 国際学生パイプライン:ベトナム人学生22名をモデルに、介護を学びながら働ける制度の構築
- 中間レベル外国人労働者制度:単純労働者より高いスキルと待遇、家族との個別契約でなく施設雇用を基本とする新カテゴリの創設
残された課題
制度の発展にかかわらず、解決が難しい問題が残る。
ケアの担い手問題:台湾の少子化が進む中、将来的に誰がケアを担うかは深刻だ。家族の担い手(多くは娘や嫁)は減り、公的サービスの担い手も不足している。
地方と都市の格差:ABCネットワークは都市部では整備が進んでいるが、農村・離島では依然手薄だ。
費用負担:現行の長照2.0はたばこ税で賄われているが、受益者の増加に伴い財源の持続可能性が問われる。
外国人介護労働者の権利:住み込み労働の性質上、労働時間や休暇の取得が曖昧になりやすく、労働基準法の適用も限定的だ。
台湾が示すもの
台湾の長期ケア制度の発展は、急速な高齢化に中所得段階で対応しようとした一つのモデルだ。長照2.0が示したコミュニティ在宅ケアの拡充は成果を上げているが、外国人介護労働者に依存した二重構造は持続可能性の観点から課題を残す。
3.0への統合がどこまで実現できるか——台湾の長期ケア改革はまだ続いている。
参考資料
- 衛生福利部(厚生労働部相当)《長照十年計画2.0》
- 勞動部《外国人介護労働者統計》2024年
- 国家発展委員会《人口推計》2023年
- 維基百科《臺灣長期照顧》